プレスリリース(2023.12.5)
<諏訪清陵高校三澤文庫所蔵>
約100年前の太陽黒点観測が最新天文学に貢献
長野県の旧制諏訪中学校の教師、三澤勝衛の約100年前の太陽黒点観測が最新天文学に貢献
~太陽活動の長期変動復元の向上へ~
■概要
■資料
■本研究について
■用語解説
■本研究に関する様々な活動について
概要
はじめに
「長野県は宇宙県」連絡協議会では、「長野県は宇宙県」をキーワードにした諸活動を行っています。
その活動の1つが、2019年より進めている研究者と市民との協働作業による長野県の100年間の天文に関わる文化的活動を明らかにする天文文化研究会です。
この度、この最初の科学的成果として、「1921-1934年の三沢勝衛の黒点観測:ウォルファー-ブルンナー遷移期の主要参照資料(Katsue Misawa’s sunspot observations in 1921–1934: a primary reference for the Wolfer–Brunner transition)」
というタイトルで王立天文学会月報の2023年12月に掲載予定です。
なお、三澤の黒点スケッチはデータベース化され、名古屋大学学術機関リポジトリ、
https://doi.org/10.18999/2008123
にて“Katsue Misawa's sunspot drawngs: 1921 – 1934”としてオンラインで閲覧できます。
研究のポイント
約100年前、三澤勝衛による1921年から1934年までの太陽黒点観測の記録が、世界的に長期観測データの整備が進んでいない期間のデータ状況を改善し、太陽活動の長期変動の理解のための根本データの改良に役立つこと示しました。
研究の背景
現代のようなデジタル社会では、太陽面爆発に伴う宇宙天気予報、太陽活動の長期変動、太陽ダイナモメカニズムの解明、あるいは、太陽活動による地球気候への影響など、様々な分野において定常的な太陽活動のモニターが大変重要となっています。 この参照データとして、1610年のハリオットから今日まで4世紀以上続く太陽黒点観測を元に作られた国際太陽黒点相対数が使われています。 この指標に最新の数理モデルや観測知見を当てはめることで、過去の太陽活動の復元や将来の太陽活動の予測が行われています(Clette et al. 2014, 2023; Mathieu et al. 2019)。 |
三澤勝衛による太陽観測の様子 <三澤氏御遺族提供>
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しかし、根本指標である国際太陽黒点相対数の時系列は、複数の異なる性能の望遠鏡を用いる別々の観測者のデータを較正したものであり、未だにデータの較正結果は研究によって少なからず齟齬が見られます。
このため、過去4世紀の黒点観測の原典の調査研究に基づき、国際太陽黒点相対数の改定作業が進行中です。
このような研究においては、複数観測者が交代で仕事を受け持つ期間観測所以上に、同一個人観測者によるより均質性の高い観測データが重要な役割を果たすことが知られています(Clette et al., 2014; Svalgaard and Schatten, 2016; Hayakawa et al. 2020, 2023)。 特に、第1次世界大戦から第2次世界大戦直後の間は、国際太陽黒点相対数に使用されている観測データについて、基幹観測所(チューリッヒ天文台)以外の元データが現状残っておらず、この期間の黒点数再較正には、独立観測者による長期観測が必要となっていました。 一方、信州では三澤勝衛が本邦で始めて数年以上にわたって太陽黒点の継続観測(1921年~1934年)を行ったことが知られていますが、この観測データはこれまで国際科学コミュニティでは利用されていませんでした。 |
三澤勝衛の黒点スケッチの例。1929年12月12日と同21日の事例。三澤(1936, pp. 138 & 142)より。 <諏訪清陵高校三澤文庫所蔵>
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これを受け、「長野県は宇宙県」連絡協議会(代表:大西浩次(長野工業高等専門学校))では、長野県諏訪清陵高等学校三澤勝衛先生記念文庫に保管されている三澤勝衛の太陽黒点観測データのスキャン、数値化、分析などを、陶山徹(長野市立博物館)、早川尚志(名大)氏を中心に、長野県内の多数の博物館関係者や諏訪清陵高等学校OB、「長野県は宇宙県」の市民研究者や「市民科学プロジェクト」による専門家などの数多くの方々と協働で行い、解析やその科学的価値を定量評価しました。
今回の成果は、この協働による最初の科学成果ですが、今後もこれらのつながりにより、県内資料の整理や調査を進めていくことを考えています。 |
研究の成果
現在、長期的な太陽変動に関する参照データとなる国際太陽黒点相対数の改定作業が行われています。特に、第1次世界大戦から第2次世界大戦直後の間は、国際太陽黒点相対数の元データがスイス国内のものを除いて体型的に保管されておらず、この期間の改訂作業には、独立した観測者による確認・再較正が必要です。
そこで、旧制諏訪中学校の教師であった三澤勝衛による1921年から1934年の太陽黒点観測の記録が貴重になります。検討の結果、彼は、ひと月あたり25.4日間という高頻度の観測を行っていたことがわかってきました。本研究では、三澤勝衛の観測記録をスキャン、デジタル化し、彼の太陽黒点相対数と現在の国際太陽黒点相対数(第2版)と比較し、その安定性を評価しました。
その結果、観測期間に渡る長期安定性が確認され、長期的な太陽変動に関する参照データとして重要な観測記録であることが分かりました。同時に、三澤勝衛の観測データで、チューリッヒ天文台の基幹観測者の交代時期(1925年から1928年)にあるずれに課題が残ることもわかりました。この変遷期のずれの解明が今後の改訂作業で重要な研究テーマであることも明るみに出ています。
参照文献
Clette, F., Svalgaard, L., Vaquero, J. M., Cliver, E. W. 2014, Space Science Reviews, 186, 35.
Clette F. et al. 2023, Solar Physics, 298, 44 https://doi.org/10.1007/s11207-023-02136-3
Hayakawa H., Clette F., Horaguchi T., Iju T., Knipp D. J., Liu H., Nakajima T., 2020, MNRAS, 492, 4513.
Hayakawa H., Suzuki D., Mathieu S., Lefèvre L., Takuma H., Hiei E., 2023, Geosci. Data J., 10, 87.
Mathieu S., Von Sachs R., Ritter C., Delouille V.. Lefèvre L., 2019, Astorophys. J.,886, 7.
Svalgaard, L., Schatten, K. 2016, Solar Physics, 291, 2653.
資料
研究の詳細はこちら。
・信州諏訪の三澤勝衛の約100年前の太陽黒点観測が太陽活動モニターの基礎資料に(PDF)
本研究について
本研究は、人間文化研究機構 創発センター基幹研究プロジェクト「横断的・融合的地域文化研究の領域展開:新たな社会の創発を目指して」国立国語研究所ユニット「地域における市民科学文化の再発見と現在」 (H421042227)、および、日本学術振興会科学研究費補助金JP20K20918, JP20H05643, JP21K13957, JP22K02956(基盤研究(C)「市民科学として読み解く「長野県は宇宙県」の天文文化」PI:大西浩次)の支援を受けておこなわれました。
論文情報
- 雑誌名:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
- 論文タイトル:Katsue Misawa’s sunspot observations in 1921–1934: a primary reference for the Wolfer-Brunner transition
- 著者:早川尚志 (名古屋大学), 陶山徹(長野市立博物館), Frédéric Clette(ベルギー王立天文台), Shreya Bhattacharya(ベルギー王立天文台), Laure Lefèvre(ベルギー王立天文台), 大西浩次(長野工業高等専門学校)
- DOI: 10.1093/mnras/stad2791
- URL: https://doi.org/10.1093/mnras/stad2791
用語解説
三澤勝衛について
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三澤勝衛 <三澤氏御遺族提供>
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諏訪清陵高校三澤勝衛先生記念文庫について
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三澤勝衛による授業の様子 <三澤氏御遺族提供>
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本研究に関する様々な活動について
「長野県は宇宙県」について
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「市民科学プロジェクト」について
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